Astro Japonica

楽しい 占星術ノート

11. Suffer Little Children - The Smiths

★2024.6.14.追記


11. 子どもたちをほどいて

荒野の向こうへ、荒野へ連れてって
浅く墓を掘って
そこで僕は 横たわるだろう

荒野の向こうへ、荒野へ連れてって
浅く墓を掘って
そこで僕は 横たわるだろう

レスリー・アン、そのかわいい白いビーズとともに
ああ、ジョン、あなたが男になる日はやって来ない
そして二度と 生まれた場所には戻れない
ああ マンチェスターには 償うことが多過ぎる

エドワード、あの誘惑の光が見える?
今夜が あなたの最期の夜となるだろう

ある女性はいった「息子は死んだと分かってる
彼の神聖な頭に この手を休めることはないでしょう」

ヒンドリーは目覚めて、ヒンドリーはいう
ヒンドリーは目覚めて、ヒンドリーは目覚めてる
ヒンドリーは目覚めて、ヒンドリーがいうには
「ああ、彼がどこへ行っても、私はついて行った」

けれど、荒れ地に咲き始めたライラックの群生でも
立ち込める死の臭いを隠せないでいる
荒れ地に咲き始めたライラックの群生でも
立ち込める死の臭いを隠せないでいる

ヒンドリーは目覚めて、ヒンドリーはいう
ヒンドリーは目覚めて、ヒンドリーは目覚めてる
ヒンドリーは目覚めて、ヒンドリーがいうには
「ああ、彼が何をしても、私もそうした」

けれど、簡単にはやり過ごせない
子どもが泣いてるから

「ああ、僕を見つけて…見つけて、それだけでいい
 僕たちは 霧がかった陰鬱な荒野で
 死んで、消え失せているかもしれない
 けれど、僕たちはきっと、僕たちは、
 僕たちは あなたのすぐそばにいる
 あなたが死ぬその日まで
 簡単にはやり過ごせないさ
 あなたが笑う時 僕たちが現れるだろう
 そう、僕たちはチームともいえる
 あなたが眠りについても
 あなたが眠りについても
 あなたが眠りについても
 もう決して夢を見ることはないだろう!
 ああ、あなたが眠りについても
 もう決して夢を見ることはないだろう!
 あなたが眠りについても
 もう決して夢を見ることはないだろう!」

ああ マンチェスターよ、償うことが多過ぎる
ああ マンチェスターよ、償うことが多過ぎる

ああ、僕を見つけて、見つけて!見つけて!
あなたが笑う時 僕たちが現れるだろう
ああ、あなたが笑う時 僕たちが現れるだろう
あなたが眠りについても
もう決して夢を見ることはないだろう!
ああ…
荒野の向こうへ、僕は荒野にいる
ああ、荒野の向こうから
ああ、その子どもは 荒野にいる

---

11. Suffer Little Children

Over the moor, take me to the moor
Dig a shallow grave
And I'll lay me down

Over the moor, take me to the moor
Dig a shallow grave
And I'll lay me down

Lesley-Anne, with your pretty white beads
Oh John, you'll never be a man
And you'll never see your home again
Oh Manchester, so much to answer for

Edward, see those alluring lights ?
Tonight will be your very last night

A woman said : "I know my son is dead
I'll never rest my hands on his sacred head"

Hindley wakes and Hindley says :
Hindley wakes, Hindley wakes, Hindley wakes, and says :
"Oh, wherever he has gone, I have gone"

But fresh lilacs moorland fields
Cannot hide the stolid stench of death
Fresh lilacs moorland fields
Cannot hide the stolid stench of death

Hindley wakes and says :
Hindley wakes, Hindley wakes, Hindley wakes, and says :
"Oh, whatever he has done, I have done"

But this is no easy ride
For a child cries :

"Oh, find me...find me, nothing more
We are on a sullen misty moor
We may be dead and we may be gone
But we will be, we will be, we will be, right by your side
Until the day you die
This is no easy ride
We will haunt you when you laugh
Yes, you could say we're a team
You might sleep
You might sleep
You might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !
Oh, you might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !
You might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !"

Oh Manchester, so much to answer for
Oh Manchester, so much to answer for

Oh, find me, find me !
Find me !
I'll haunt you when you laugh
Oh, I'll haunt you when you laugh
You might sleep
BUT YOU WILL NEVER DREAM !
Oh...
Over the moors, I'm on the moor
Oh, over the moor
Oh, the child is on the moor



マンチェスターに住んでいた、この歌詞に出てくる「ジョン」の遺族は、ある日偶然この曲を聴いた。レスリー・アン、ジョン・キルブライド、エドワーズ・エヴァンズは、実際にこの事件の被害者の名前だった。この歌の初出は1stだが、それより数ヶ月後に出たシングル『Heaven Knows I’m Miserable Now』のB面にも収められ、トップ10入りし広く知られた頃だった。遺族の訴えを、マンチェスターの地元日刊紙が大々的に報じ、論争とバッシングが起こることになる。有名チェーン店からこのシングルが回収され、1stも発売禁止。メディアはジャケットの女性(ヴィヴ・ニコルソン、サッカーくじで大当たりして破滅的な人生を送った)を加害者のマイラ・ヒンドリー本人と勘違いしたりもした。

その後、遺族の一人であるアン・ウェストとモリッシーは直接手紙を交わし、誤解は解け親しくなる。アンからは「曲の真意に感動しました」とも書かれていた。彼女がモリッシーの自宅を訪ね、夫妻がスミスのコンサートに招待されることもあった。この次のアルバムには彼らの名前もクレジットされている。

歌詞にはそもそも、殺人鬼らを擁護・賛美するヶ所はない。おさまらない恐怖と行き場のない哀しさ、そして子どもたちのさまよう魂が今もすぐそばにいるという感覚。1963年から1965年の事件当時にモリッシーは4才から6才、被害者たちはそれより少し上の少年少女たちで、最後の被害者となったのは17才のゲイの少年だった。

ムーアズ殺人事件は、マイラ・ヒンドリーとイアン・ブレイディのカップル2人が、子どもを誘拐し虐待したあとに殺害し、マンチェスターのサドルワース・ムーアという荒野に埋めた連続殺人事件。最後の被害者となったエドワードの殺害の時、イアンは共犯者を増やそうと、マイラの妹モリーンの夫であるデヴィッド・スミスを呼んで遺体の始末を手伝わせた。デヴィッドは帰宅するなり嘔吐し、妻と相談し翌朝に通報。そのモリーンとデヴィッドが証人として赴いた写真が雑誌に掲載され、それを元にSonic Youth『Goo』(1990年)のジャケットが描かれた。The Smithsというバンド名もこの「スミスたち」から来ているという説も。また、アメリカの絵本作家、エドワード・ゴーリーによる『おぞましい二人』(1977年)はこの事件をもとに描かれている。

階級社会の構造も、その労働者階級自体の内部もまた然り、それぞれの階層で強者は弱者を虐げる。そして、どこまでも残虐になれてしまう。加害者側の不可解な残酷さと、それと同時に、虐げ続けるこの世を芯から呪う気持ちも、それがどこまでも正当である分、被害者たちの無念さも途方もなくまたこわかったのだと思う。この歌でもやはり、描かれる「子どもたち」と書き手の境界はとても脆い。これから自分が人生で楽しく思う時も、そして眠りにつこうとする時も、この子どもたちに邪魔されてもそれは仕方ない、と受け容れているかのようだ。自伝ではずっとあとにこの「荒野」へ行き、真夜中に車へ向かって来る少年の霊を見たことを克明に書いている。「安全など幻想に過ぎない」、その幻想の外にあるのは不可解な謎でもある。「ヒンドラーとブレイディの共謀は理解しようがない」。

”サファー・リトル・チルドレン”という歌詞があった。それが書かれた2枚の紙を足元に置き、僕は床にギターを持ってあぐらをかき、〈録音〉のボタンを押した。歌詞に目をやりながら、僕の手は勝手に曲を弾き始めていた。何かが起きていた。曲がどこからともなく湧き出てきたのだ。ヴァースを弾き進める僕に合わせてモリッシーが歌い、僕の目と頭の中に言葉と物語が浮かび上がっていた。ギターがヴォーカルの下で鳴る中、僕は勢いにひっぱられるようにその後を追い続けた。そして気付くと、曲は完成していた。誰の曲とも違う、誰の曲のような感じさえしない曲。それは〈ムーアの殺人〉を歌った曲だった。どう判断すべきか、僕にも分からなかった。分かるのはどう感じるかということだけ。不思議なぐらいの真実。僕の感情は漂い、僕はただその瞬間を追っているだけのような気がした。部屋にあったオルゴールのネジを巻き、窓に近付き、オルゴールを外に差し出した。そして別の手にマイクを持ち、オルゴールのメロディと子どもの声を同時に録音した。予想もしなかった言葉の数々を目の当たりにした驚きもだが、北に育った人間として、この曲が醸し出す心情には、他の何よりも僕の心に引っかかるものがあった。それが僕らを決定づけたのだ、初めて一緒に曲を書いたあの日から。それは僕に語り掛けていた。「僕らは他とはちがうんだ
 ―『ジョニー・マー自伝』より

一般にルーツというと、例えば分かりやすくアフリカ系ならブラックミュージック、または親が聴いていた音楽などを指す。けれど、スミスにとってのルーツはそれらとはちがうようだ。彼らはメンバー全員がアイルランド移民の両親を持ち、マンチェスターで生まれた。当時は一つの家族だけでなく、親戚一同で移住することが多かった。そのコミュニティで培われ共有されてきた感覚、アイルランドにある祖父母の家、地元で制作されたドラマやテレビ番組、労働者階級出身の歌手や俳優などスターたち、マンチェスターの気候や天候や日射し、地元で起こった事件や出来事、街の図書館で借りて読んだ本たち(オスカー・ワイルドアイルランド出身)、そういうことまでひっくるめてルーツなのだなと思う。そういうマンチェスターの空気まで流れている「北の文化」なるものが存在している。はっきりと何か音楽の一ジャンルとはなっていなくても、そこに住んでいた人が共有できる感覚自体をルーツとして、拠り所としている感じ。だからこそ、対象・題材自体が素敵か・分かりやすいかではなく、それについて自分がどう感じるか・どう追うかを丁寧に拾い集めることが出来るのかもしれない。

それにしても、モリ&マーでカバーされたTシャツほしいな!