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もう一人の「スミス」?

ザ・スミス」というバンド名の由来について、パティ・スミスマーク・E・スミス(ザ・フォール)、デヴィッド・スミスたち、クラブ「ミスタースミス」…と評伝には書き連ねてある。イギリスで最も多い姓をアイルランド移民のバンドが名乗る皮肉、とも。メンバー本人たちの伝記には、特定の誰かの名前はなく、「シンプル」「何にでもなじみが良さそう」だったからとのこと。インタビューでは曰く「最も普通の名前であり、普通の人々が世界に顔を出すべき時が来た」。

先日「あ、これかも?」と思う「スミス」を見た。でも結論からいうと、時期的にちがっていた。それは元セックス・ピストルズジョン・ライドンの唯一の主演映画『コップキラー』("Copkiller"の他にも"The Order of Death", "Corrupt"など、本国のイタリア語も含めて色々名前がある)の役名、レオ・スミス。

まず、なんでちがったかというと、「The Smiths」の名付けはwikiによると「遅くとも1982年後半までには」決定したらしい。モリ自伝は時系列が全く分からないので置いといて、マー自伝によるとモリ家への初訪問が1982年初夏(5月)で、最初のギグ(10月)の前、あとのリズム隊が決まる前にすでにバンド名が決まっている。この映画が本国のイタリアで公開されたのが1983年3月、アメリカが1984年1月、イギリスがいつか分からないが、1983年にはイギリスでレビューされているので、1983年中には公開。なので、いずれにしてもバンド名が決まったあと。映画の撮影自体が1982年5月から7月。

公開当時は賛否両論で、商業的にも成功しなかったのか、割とすぐにパブリックドメインに。後にハーヴェイ・カイテルジョン・ライドンが出演した、カルト的古典として再評価されたそうな。youtubeに全編が上がっている。



見た感想としてはめっちゃ面白い、いい映画。なんで「否」だったんだろう?お金持ちの精神病者の若者で、か弱いけど頭の切れる犯罪者という、普通に考えて難しい役だけど、ジョン・ライドンの演技はごく自然。当時の評論家はどうやらあれを素だと思ったらしい。笑 そもそもピストルズ自体、パフォーマンスで演技で、それを最後まで演じ切ったわけだけれど。偏見かもしれないけれど、それに演出もあるかもしれないけれど、日本の俳優が精神を患った役を演じると「狂気を表現できる俺すごい」的な、簡単にいうとざーとらしさがあるけど、ジョン・ライドンはそういう精神病者たちを間近で見続けてきたからか、役への共感と優しい目線すら感じる。まあ強いてマイナスをいえば、お金持ちのボンボンにしては、暴力にやられ慣れ過ぎてる感じはする。笑 ピストルズ時代、保守派から刺されるなどさんざん襲われてきたからか。というかもしかしたら、イギリスはお金持ちでもそうなのかもしれない(こわい国…)。

この頃、すでに太り始めてた時だけれど、それでも美しい。ちょっとびっくりした。かっこいいいうよりなんか綺麗。白い浴室で裸で監禁されてるのだけど、抜けるように色が白い。スラム街で生まれて実家で歯を磨く習慣がなく、同じくスラム育ちの万引き常習犯のギタリストに「歯ぁ腐ってんな!」(黄色通り越して緑だったらしい)といわれてジョニー・ロットン(rotten=腐った)という芸名になったり、子どもの頃に水しか出ないお風呂で月に一度、石鹸代わりの殺虫剤とトイレ用のブラシで身体を洗われる、のが嫌で嘘ついて回避してたり、という人がこんなに美しいのか。全編私服らしく、すっごくおしゃれだし、かわいい。歯磨かなくても、風呂入らなくても(さすがに当時は洗ってたと思うけど)、あんなおしゃれになるんだなと思ったし、おしゃれしていいんだなと思った。

なんで「スミス」の一人かと思ったか、のいくつか。最初警察をつけ回していたことでホモ呼ばわりされていた。そして、あまりいうとネタバレなのだけど、腐敗した警察に対して、腕力では全く勝てないながら(前半はかなりやられっぱなし)、最終的に頭のキレだけで見事追い詰めることになる。また映画の中で「君みたいなハンサムな男が」といわれるシーンもある。もちろん、ザ・スミスの曲「This Charming man」とは、まるっきり違うシチュエーションなのだけれど。確か「ハンサム」という言葉は、当時でもあまり使われなくなっていた古い言葉だったらしく、それをあえてこの曲の中で使ったらしいので。

うーん、でも時期がちがったようで。スミスの始まりの時とこの映画の制作時期が重なっていて、わずかながら不思議な偶然が起こってるように思った。セックス・ピストルズが最初にマンチェスターでライブした時(1976年)、観客は42人ながらまだ出会う前のモリとマーも、ジョイ・ディヴィジョン、バズコックス、シンプリー・レッドの面々もいた。モリ自伝に「ピストルズの3回目のマンチェスター公演のあと」とあるので、辛口批評しつつ何だかんだ観に行き続けてたみたいだし。それにピストルズの「God Save the Queen」の10年後に、スミスの「Queen is Dead」だし。ちなみにこの批評の中で一見毒づかれているように見える「ベッドから抜け出したような小汚い衣装」は、洒脱という意味での最上級の誉め言葉。要は服に無頓着そうに見えて、自然にお洒落になってる、という。

ピストルズやPILの歌詞も訳してみたいな。著名人の中で、政治的な考え方も一番共感できるし。この映画では出て来ないけど、イギリス人だからか(この人も両親がアイルランド移民だけど)、チェック柄を年とってからもよく着ていて、しかも上下で別々の柄を着てるとか、すごくかわいい。ほしくなって、ネットで色々探してしまいます。