今回は素晴らしいピアノ調律師の方をご紹介。ウチダピアノ調律所・オーナーの内田三郎さん。
私宅にあるのは、今は亡きメーカー「大橋ピアノ」のアップライトピアノ。台数が限られていることと、何よりその品質の良さから「幻のピアノ」ともいわれているピアノで、年々希少性が高くなり価格も高騰しているそう。大橋ピアノやその他、ピアノ関連について以前「ピアノ探訪」という記事を書いたことがあるので、ご興味ある方はこちらをどうぞ。
私が購入したのは2014年、京都の中古ピアノ販売店で、バンドで演奏しに行ったついでに試弾した時。ピアノは高い買い物になるので、元々その数年前からネット・書籍・ピアノ店などで色々調べていました(「買い物は買うまでが楽しい」ので、その間を引き延ばすためにも私は徹底して調べます…)。それで考えた結果、中古で元々の質がいいピアノを買い、メンテナンスは後で腕のある人にお願いすることに。
なので、購入以降何人かの調律師の方に見てもらったのだけれど、どうも上がらない鍵盤が出てきたり、タッチが不揃いだったり、色々不具合が残ってしまう。中には、某有名ヨーロッパピアノの正規代理店の方に、1日がかり5万円で調整していただいたのだけど、結果う~ん・・・ということも。
まあ後で分かったこと、それも内田さんから教えてもらったことですが、一口に調律・調整といっても、基本的には見るところが決まっているそうで、逆に言うと、それだけピアノの部品の数・消耗していく部位は、ものすごく多いということ。なので、不具合や直してほしいところを、事前にきちんと把握して伝えておいた方が良かったようです。
内田さんはこちらが心配になるぐらい、かなり良心的な金額ながら、今までで一番、見違えるほどピアノを良くしてくれました。ようやくタッチが滑らかになり、そして音が生まれて届くまでの間に隔てるものがなくなり、楽器の音がちゃんと鳴って澄んだ色に。
大橋ピアノは不思議なピアノで、音色としては内省的な深い音ながら、現地で他のピアノと比較して弾くと際立って鳴りが良く、それでいて芯のある歯切れの良い音。「ピアノにもお国柄が出る」らしいですが、正に日本的な音色のように感じます。ヨーロッパのブリュートナーやベヒシュタインの浮遊感のある響き、ヒストリカルピアノであるガヴォーなどの現代にはない褪せたような温かな音にも憧れますが、やはり自分には大橋ピアノの音がしっくり来るように思うのです。なので、改めて本当にいい買い物をしました。
余談になりますが、内田さんに調律を432㎐でできるか相談してみたところ、やったことがなく2日がかりになりそうとのこと。この暑い中に千葉市から東東京までお越しいただいて、古希を超える方に何度もは悪いと思い、今回は遠慮して438㎐で調律してもらいました。それでなくても、去年から結果的に4回お越しいただいて、いずれも長丁場だったので。周波数については、色々な話がネットにもゴロゴロ落ちてますが、少しだけ書くと、バイオリンのストラディバリウスやブルース音楽も元は432Hzだった説もあり、432Hzが世界基準にこそ定められたことはなかったけれど、他にも古代エジプトやインド音楽など人類が耳で何となく合わせた音楽はこの周波数である割合が多いそう。
内田さんは調律師の研修期間に、大橋ピアノで創業者の大橋幡岩氏がご存命の時代にピアノを作っていたことがあり、また伝説的な調律師・杵淵直知氏(大橋ピアノ立ち上げにも協力)のもとで調律を学ばれたこともあるそうです。この両方の経験をお持ちの方は、現役ではもう数名しかいないそうで、その頃のお話も色々聞かせてもらいました。さくっと書くつもりが長くなってしまいましたが、もしピアノを持っている方には、おすすめの調律師さんです。気さくなやさしい方で、古いピアノを丁寧に調整していただいて、感謝しています。